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もうすぐ社会人


by unknownpink
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いいアニメはパラダイムシフトする

かつて私の友人で
「恐怖」という題材で何かを彫刻を作ることになったら
人の手をつくるだろう
と言っていたのを覚えている。

私の頭の中は即発的に
高村光太郎の彫刻の中でも傑作とうたわれる
『手』を想起した。


がしかし、
「手」というモチーフを
自分自身
優しさやぬくもり
人の生きざまといった
無意識に
積極的なイメージとして
捉えていたから


「恐怖」という
消極的なイメージとして捉えた友人に
衝撃を感じたし

同時に
私の中で
発想の転換と
面白さをおぼえた。



今日はアニメをみて
よくつかわれる「転換」の手法について
読みといていこう。


なお、別項で「感動」のためのロジックとして「矛盾」について
語ることを試みているが


私のなかでは厳密にいえば「転換」も「矛盾」のトリックの一つだ。

なぜならば、
転換するためには
対照的な二個の認識物が必要だからであり、

いわば「転換」は
二個の認識物を
時間をずらし
演出方法を変えることで
空間的な矛盾による
感動を生み出すといえる。


さて、
転換とはどんな場面で使われているのだろう。


結婚式における
花嫁のお色直しのごとく


作品において
ある
対象、場面、構図、セリフ
―――なんでもいいのだが

そののちにそれが複数回登場(反復)する際に
印象や意味付けを転換させて表現することができる。

たとえば
愛をのべるセリフが
憎しみをのべるセリフとなって転換したり
(「ひぐらしのなく頃に」「攻殻機動隊」など多数)


最初は暗くどんよりした街が
明るくさわやかな街に変化する
(「電脳コイル」「鉄コン筋クリート」の世界観など多数)

といった
変化を演出することである。



『交響詩編エウレカセブン』(制作BONDS、2005年)で最も人気が高い場面は


全50話のなかでも第26話「モーニング・グローリー」である。


ご覧になっていない方には申し訳ないのだが
本当にこの場面は
素晴らしいので語りたい。


簡単な物語の内容を説明しよう。


主人公レントンは世界の真実も理解せぬまま、
ある事件をきっかけに
憧れのロボットLFOにのり
リフボーダー集団のゲッコーステイトへ加入し
運命の相手となる
ヒロインのエウレカに出会う。



冒頭はボーイミーツガールのスタイルをとり
視聴者はレントンの立場から
物語に感情移入していくうまいつくりをしている。


さてここでは
どのような転換が
表現手法としてつかわれているのだろうか。


第2話において
主人公レントンは
一目惚れしたエウレカを
追いかけて告白する。


「きみじゃなきゃだめなんだ、
きみだからできたんだ」


その後
いくつかの紆余曲折を経て


主人公レントンは
エウレカのもとを去る。



第26話では

無機質でとらえどころのなかったヒロインのエウレカが

レントンの存在の大きさに気づき

今度は自分から彼を追うのだ。

(ここの回の
ヒロインのエウレカの行動には
いくつかそれまでの行動と反面している部分が多いのも記しておく)

再会のときの
エウレカの言葉はこうである。


「レントンじゃなきゃだめなの、
レントンだからできたんだよ」


セリフは第2話に呼応して

再会の状況が
「上空からのダイブの後の、ロボットの操縦席」
であることや
背景なども
効果的に演出することで

第2話から第26話への
二人の関係が
片思いから両思いになる変化を
上手に表現している。


転換の表現を
アニメ作品の中で上手に描くためには


当然、作り手の側が
「転換」対象の変化について
きちんと認識していなければならない。


つまり
転換するまえと
転換したあとの

変化をわかって描いているかどうか。

(もちろん、パターンにはまりすぎてもいけないのだけれど)


キャラクターの心情描写でもいい。

世界観の変容でもいい。

空間的二元対立てしての
「転換」は
私たちに大きな影響を与える。


もっとも、


最大の「転換」的現象は作品の体系の外部にある。


作品の内部という画面が発するイメージ、
それらから隆起する
情報はもたらす
私たち視聴者の内部に侵入し、視聴者の常識という体系を変容するのだ。


私が思うに
アニメーションが私たちの内部に転回する
偉大な哲学の素晴らしさとは、

これまで当たり前だと思っていた現実世界の常識が
残酷なまでに
打ち砕かれる瞬間に帰結することなのだから。
by unknownpink | 2007-12-30 19:40 | known*わかった